PROJECT
STORY
STÁLOGY®SHOP 立ち上げ篇
2015年12月、東京・代官山に「STÁLOGY LABORATORY TOKYO」がオープンした。店内に置かれた白いポストがひときわ目を引くこの店は、ニトムズの文房具ブランド「STÁLOGY®」のアンテナショップである。このニトムズ初の直営店舗立ち上げを託されたのは、営業・総務・経理・情報システムなど幅広い部門から集まった14人のメンバー。オープンまで2カ月というタイトスケジュールのなか、どのようにしてオープンにこぎつけたのか。メンバーたちの奮闘を追った。

メンバー紹介

  • 営業

    営業
    2008年入社

    STÁLOGY®の量販店向け営業を担当

  • 情報システム

    情報システム
    2000年入社

    社内のITシステムの統括責任者

  • 経理

    経理
    2012年入社

    経費精算業務、会社の現預金管理など経理業務を担当

  • 人事総務

    人事総務
    1993年入社

    職場の環境整備、新入社員教育など人事総務を担当

SECTION 01営業 飯田の挑戦

やる気だけじゃ、
どうにもならない。

ニトムズが店を出す――。このアイデアは、STÁLOGY®の新しい売り方を模索するなかで浮上した。ニトムズの商品は、主にホームセンターやGMSなどの量販店で売られている。直営店舗はない。営業担当の飯田剛は、メーカーもお客さまの声を直接聞ける場を持つべきだと常々考えていた。
商業施設に期間限定のポップアップショップを出してみたこともある。「へぇ、こんなお客さまが買ってくださってるんだ」「こんな用途は思いつかなかったなぁ」生活者の目線に触れると、新しい発見がたくさんあった。経営陣への報告会で、「今後は店舗を計画していきたいです」と発表した。
その飯田に、アンテナショップ立ち上げのリーダーとして白羽の矢が立った。店なんて作ったことはないし、もっと適任者がいるんじゃないかと思ったが、挑戦したい気持ちが勝った。
「やります、やらせてください!」
頭で考えるより先に、言葉が出ていた。

ただ単に商品を販売するだけの場所にはしたくない。商品に触れて、体験して、商品の良さを理解してもらいたい。もっと言えば、サービスを通して人と人とが出会える場所にできるといい。そのような思いから、コンセプトを作成するパートナー会社と何度も話し合いを重ね、「ヒトとヒト、ヒトとモノをくっつける」を店のコンセプトに決めた。
内装にもこだわりたかった。ブランドがまとうスタンダードなイメージに合うように、凝った造りよりも、床は古材を使い、シンプルでノスタルジックな内装にしよう。奥には昔の郵便局を思わせる棚を設置して、お客さまには1年後の自分に届く「未来レター」を書いていただこう。
これを、人と人をつなぐサービスの目玉にしたい――。

実のところ、このようにすんなりと物事が決定し、進んでいったわけではなかった。店づくりの経験がない飯田は、何から手をつけていいか、さっぱり分からない。届け出は必要なのか、保険は、内装業者は、どうすればいい? オープンまでは2カ月しかない。それまでに内装を施し、売り場をつくり、サービス内容や運営方法を決め、通信やセキュリティなどのインフラを整備し、ショップ店員を確保しなければならない。唯一、幸いだったのは、代官山に物件が決まっていたことだ。それでも内装工事に1カ月かかるとすると、最初の1カ月である程度のことを決めなければならない。
リーダーとしての気負いから、すべて自分がやらなきゃ、と思い込んでいた。右も左も分からず、不安と焦りだけが募っていく。
もう限界を超えていた。
「助けてくれませんか」
飯田は、メンバーのベテラン社員2人にサポートを求めた。

飯田の想い

困ると誰かが助けてくれるのがニトムズ。

リーダーだからと全部自分でやろうとしても、一人では何もできないことを痛感しましたね。助けを求めたり、求められたりして、協力しながらやっていくことが大事なんだと学びました。

SECTION 01情報システム 松本の俯瞰

地に足がついてないな、
あいつ。

サブリーダーとなって自分をバックアップしてほしい。飯田は2人のベテラン社員に声をかけた。飯田が店舗デザインや内装を中心に全体の進捗を管理し、売り場やサービスなどフロント業務に関することと、セキュリティや通信などバックオフィス業務に関することを、2人のサブリーダーが分担して進めていくことにした。
バックオフィスの構築を任されたのが、情報システムグループの松本博充である。普段は豊橋事業所に常勤し、社内のITシステムを統括する立場にある。
当初、飯田が慣れない店舗立ち上げに右往左往していることは、松本も気づいていた。あたふたするだけで、地に足が付いていないように見えた。
「具体的に何をすべきかを、まずは考えろ」そうアドバイスはしたが、飯田が自分でなんとかしようと藻掻くうちは、あえて手を貸そうとはしなかった。
ただし、助けを求められれば、喜んでサポートするつもりだった。

メンバーの半数以上は若手で、未経験者も多い。これには若手に経験を積ませたいという会社の思惑もある。松本のようなベテラン社員も参加するなか、中堅社員の飯田がリーダーに抜擢されたのもそういう理由からだ。
飯田には、この経験をバネに自信をつけていってもらいたい。
時に厳しく、時に熱く、若手を支え、盛り立てる。松本は頼れる兄貴のような存在だ。

まず着手したのが、オープンまでの段取りづくりだ。
松本は以前、STÁLOGY®のWEBショップの立ち上げに携わった経験があり、店舗のバックオフィス構築に関しては多少の知見があった。店舗の契約、消防への届け出、店舗運営における業務フローの作成、地域の町内会とのやり取りなど、やるべきことはたくさんある。それらをすべてリストに書き出し、いつまでに何をやるかを決め、メンバーに指示していった。
「それにしても、時間がないな」
2カ月というスケジュールは、ベテランの松本ですら「あり得ない」と絶句するほどの短期間だった。

松本の想い

チームに大切なのは、
一体感。

プロジェクトのマネジメントで気をつけたのは、やるべきことを漏れなく、精度よく段取ることです。時間がないからこそ、段取りが何よりも大事です。そして、進捗をメンバー全員で共有すること。たとえ一人ひとりの仕事が素晴らしくても、個々が好き勝手に動けばプロジェクトは成功しません。個々の能力を生かしながら、全体として整合性が取れるようマネジメントするのに苦心しました。

SECTION 01経理 日置の泰然

東京チーム、
浮き足だってない?

当時入社4年目の経理担当、日置 緑は、上司の推薦でこのプロジェクトに参加した。普段の業務では、他の部署の人と目的を共有して、一緒に何かをするという機会はほとんどない。
だから、社内初のアンテナショップ立ち上げのプロジェクトメンバーに推薦されたときは、驚いた。未知なる体験への緊張もあった。「いいチャレンジの場じゃないか。僕もサポートするから、がんばってこい」上司に背中を押され、前向きに取り組んでみようと決めた。

日置の担当は、レジ販売の業務フローを確立することである。それまで自社店舗を持たなかったニトムズにとって、レジまわりの業務は経験がなかった。
特に日置の頭を悩ませたのは、現金の管理だ。メーカーとして商品を売り、代金を回収する作業はこれまでもあったが、そこに「現金」が登場することはない。現金を店のどこに置き、どう管理するのか。しかも、悪用されずに、正しく。
考えられる対策を自分で調べ、上司の知恵も借りた。そうして、店内のしかるべき場所に保管する方法を考え出した。現金の管理は一人に任せるのではなく、必ず複数の人の目を持って行うこともルール化した。業務マニュアルを作成し、販売員への指導も行った。これで、代金回収のモレや、販売員による不正や悪用を防げるはずである。

日置は普段は豊橋事業所にいる。彼女とサブリーダーの松本を含め、5人が豊橋からの参加だ。彼らは総務や経理など管理部門に所属していて、このプロジェクトではバックオフィス構築を担当した。一方、東京のメンバーは営業や企画など事業部門に所属し、売り場やサービスなどフロント業務の構築を担当した。おのずと豊橋の「バックオフィスチーム」と東京の「フロントチーム」に分かれた。
東京との打ち合わせはいつもテレビ会議だ。
日置は、彼らとは物理的な距離が離れているだけでなく、考え方も違うと感じることがよくあった。東京チームは、こんな売り場にしようとか、あんなサービスがあったらいいよね、とアイデアをどんどん膨らませていく。ともすれば店舗のセキュリティ面は置き去りにされた。一方の豊橋チームは、店舗が滞りなく運営され、お客さまが安全に安心して買い物できる環境を第一に考える。当然、両者の間では意見の食い違いが起きた。
どうすれば浮足立つ東京チームを説得し、店舗を円滑に運営できるバックオフィスを構築できるのか。日置と松本を含む豊橋のメンバーは、何度も作戦会議を開いた。

日置の想い

次は120%の力を
発揮したい。

経理の仕事は、商品の企画や開発と違って、何か目に見える仕事ではありません。でも、経理がしっかりしていないと、社員は安心して働けません。みんなの不安を取り除く縁の下の力持ちのような役割だと思っています。今回、アンテナショップという形あるものを生み出すことに貢献できたのは、やりがいを感じました。

SECTION 01人事総務 石井の堅守

派手さの裏側に、
弱点が隠されてないか。

東京vs豊橋の攻防が最も熱を帯びたのは、「未来レター」のサービス運用に関する議論だった。未来レターは、商品を購入したお客さまに未来の自分に手紙を書いてもらい、1年後に届けるというものだ。アンテナショップのコンセプトを象徴する、リーダー飯田の肝入りのサービスである。
お客さまから預かった郵便物はどうするのか――。店舗のセキュリティを担当する石井力は、個人情報の取り扱いに問題があることを指摘した。
東京チームは、昔の郵便局のように、店内に設置する棚に見えるように置いておきたいと考えた。日ごとに郵便物が溜まっていく様子をお客さまにも楽しんでもらいたい。だが、石井からすれば、郵便物を放置して、盗まれでもしたら大問題である。コンセプトを大事にしたいという飯田たちの気持ちも理解できる。けれども、セキュリティの担保は譲れない。
豊橋チームは、東京チームに運用方法の再考を求めた。

こうした白熱した議論も含め、プロジェクトの打ち合わせの場が石井には新鮮だった。普段の業務では人事総務を担当しているが、その前はずっと情報システムグループにいた。プロジェクト参加は今回が初めてである。
所属部署での仕事は、大抵やることが決まっていた。上司から指示された仕事、与えられた仕事をこなすことに何の疑問もなかった。けれども、プロジェクトで求められているのは、自分で考え、みずから行動することだ。年齢や役職、勤続年数に関係なく、相手を尊重し、同じ目的に向かって取り組むことの大切さを学んだ。
「代官山」という街の響きにも想像が膨らんだ。豊橋とは違って、きっとおしゃれな風景が広がっているのに違いない。東京出張のついでに、オープン直前の店舗に寄ってみたことがある。そこで打ち合わせを行っていた外部の関係者は、スーツにネクタイではなく、くるぶしが見えるパンツを履いていた。そんなことも新鮮だった。

後日、東京チームから未来レターの運用の改善策が提示された。お客さまの郵便物はその日のものだけ棚に置き、翌日には取り込んで、店内の安全な場所で保管する。棚にはそれと同数のダミー封筒を置き、郵便局らしさを演出するというものだった。
「これでどう?石井さん」
テレビ会議の向こう側で、飯田が得意そうな顔を見せた。
「いいと思いますよ」
石井は答えた。

石井の想い

リスクマネジメントしながら、 理想に近づける。

プロジェクトが進むにつれて、代官山の店舗が出来上がっていく様子を見ている東京チームはどんどん盛り上がっていき、豊橋にいる自分たちとの温度差があったのは確かです。でも、同じ目的に向かっている意識は常に持っていたと思います。まだ内装工事中の店舗を訪れた時、実際に店が出来上がっていくのを目の当たりにしてうれしかったですね。豊橋チームの指摘もちゃんと反映されていました。

SECTION EPエピローグ

誰一人として、
妥協のないオープン。

「おしゃれな店ができたな」。
アンテナショップのプレオープニング当日、松本は日置を連れて豊橋から駆けつけていた。店を見るのは、この時が初めてだ。
プロジェクトリーダーの飯田は、挨拶のために訪れた日東電工社長とニトムズ社長の案内に追われている。前日も夜遅くまで商品の陳列作業をしていたはずだ。
飯田には、ともにプロジェクトを進めてきたメンバーに感謝してもしきれない思いがあるが、それを伝える余裕は持ち合わせていないようだ。

この短期間で店舗を完成させたのは奇跡に近い。よくやった。松本は飯田の成長に目を細める。リーダーとしての責務をまっとうし、一皮むけたように見えた。
他の若手メンバーも、分からないなりによくついてきた。誰一人、妥協などしなかった。何年か経って、このプロジェクトを俯瞰して捉えられるようになったとき、自分の経験を後輩たちに伝えてくれたらと思う。

次はニューヨークか、パリか、ミラノか。STÁLOGY®が目指すのは、国内はもとより、海外の市場である。グローバルなトレンド発信の最前線で、店舗を構えていくべきだ。その店舗も自分たちの手でつくれたら最高だ。
2カ月というタイトスケジュールはもう勘弁してほしいけどな、と松本は日置に軽口を言いながらも、感慨深げにグラスに口をつけた。

STÁLOGY®