PROJECT
STORY
日東堂立ち上げ篇
2018年9月、京都・八坂に日本の技術力にフォーカスした、暮らしの道具店「日東堂」をオープン。ニトムズが運営する店舗としては2店舗目となる。「ジャパンテクノロジー」をコンセプトに、ニトムズが展開する4つのブランドアイテムの他、日本の魅力を感じられるアイテムをセレクト。そして、ご来店いただいた方が語らう場としてコーヒースタンドを併設。製品販売だけではなく、空間全体で体験できるように設計されている。プロジェクトのメンバーは20名。その中から4名にフォーカスをあてた。

メンバー紹介

  • 営業

    営業
    2016年入社

    コロコロ®、STÁLOGY®の国内既存顧客営業担当

  • 企画

    企画
    1988年入社

    STÁLOGY®ほか2ブランドのブランドマネージャー

  • 営業

    営業
    2008年入社

    STÁLOGY®ほか2ブランドの新規ビジネスモデル組立て

  • 企画

    企画
    2016年入社

    STÁLOGY®ほか2ブランドおよび新商品の企画

SECTION 01営業 筒井の志願

やっと巡ってきたチャンス。
結果を出したい。

「やった!何か残すぞ!」予てより企画職を志望していた営業部の筒井千晶に、“日東堂”の立ち上げメンバーへの参加要請がきた。「ついに!」と胸を昂ぶらせる。部長が推薦してくれたんだろうか。筒井は事あるごとに「企画の仕事がしたいんです」と営業統括部長に言い続けていた。もしかしたらそれが実ったのかもしれないなと感じた。

だがそのわくわくした気持ちは、最初の会議で泡となって消える。会議の参加メンバーは日常的に製品企画をしている社員たち。行き交うワードを理解できず、話にまったくついて行けない。悔しさと、力不足であることに苛立ちを感じていた。

月日は流れ、プロジェクトは計画を実現させる第二フェーズへ。店のコンセプトは「ジャパンテクノロジー」。ニトムズ製品や、日本の技術力にフォーカスしたアイテムを販売する他、“KYOTO COFFEE”と銘打ったコーヒースタンドを店舗に設けることになった。これは、日本の技術力を支える一つに「相手を気づかい、思いやる気持ち」があるとの考えから、おもてなしを表現する肝として採用された。

筒井はこのコーヒースタンド設置のリーダーに任命された。パートナー企業と提供するメニューを検討し、どれも魅力的と思うものが完成。中でもお気に入りは「オレグラッセ」。ワイングラスに入れたたっぷりのミルクに自家製シロップを混ぜ、抽出した水出しコーヒーを注ぐ。コーヒーとミルクがきれいに二層に分かれている飲みもの。これはみんなに飲んでもらいたい。開店への期待の高まりとともに、成功させねばという使命感にかられていく。筒井は他のメンバーとともにコーヒースタンドのコンセプトを決めていた。それは、「コーヒーを片手に語らう場」。店内でお休みいただきながら、これから向かう景観への期待や、見てきた名所の思い出、さらには日本の藝をつくした道具たちを手に取りながら語り合っていただく空間を提供するという意図。

この頃になると筒井もすっかりプロジェクトに馴染んでいた。親身になってくれる先輩たちに囲まれて、臆することなく力を発揮できるようになっていた。ミーティングでも「そんなハッキリ自分の考えを言えるんだね。」と、実務のリーダーである飯田に驚かれるほど、落ち着いて発言できるようになった。途中から同期の田中もプロジェクトに加わった。実務的にも、精神的にも頼もしいメンバーに支えられていた。

ところがオープンが迫ったころ、筒井の仕事はことさら増え、困難を極めていく。原価計算が合わない。備品の発注ロットが要望通りにいかない。期日は待ってくれない。先輩とともに解決を目指すも、なかなか上手くいかない。同時にプロジェクト外の通常業務もピークの忙しさになっていった。
そして、とうとう筒井は決壊する。このプロジェクトの責任者である小川の元に向かい、告げた。「私をコーヒースタンドのリーダーから降ろしてください」。

※所属部署は取材当時のものです。

筒井の想い

売上目標を達成すると、
やりがいを感じる。

企画職に憧れがあったので、提供するメニューの検討や、コーヒースタンドのデザインの選定がたのしかったです。これからはお店の売上を上げていくことを考えたい。営業思考で頑張ります!みなさん京都に行ったら日東堂にお越しください!

SECTION 01ブランドマネージャー 小川の愛情

愛するニトムズブランドを、
世界中に届けたい。

「私をコーヒースタンドのリーダーから降ろしてください」筒井の突然の申告に、ブランドマネージャーの小川隆久が動じることはなかった。コーヒースタンド設置のリーダーに筒井を任命するのは、本音を言うと少し不安も感じていた。まだ経験の浅い筒井に、この役割が務まるかどうか。だが働きぶりをみているうちに考えが変わった。芯が強い。パートナー企業の言うことを妄信せず、自分の意見をしっかり伝えることができる。強い推進力でコーヒースタンドの設置を、オープンに向けて順調に軌道に乗せていた。筒井なら大丈夫だ。そう確信していた。サポートを強化するから続けてくれと説得し、リーダーの役割を続けてもらった。
「しかし、簡単にはいかないな」小川はつぶやいた。思えば、スタートからずっと茨の道である。

一年を超えるプロジェクトが動き出したのは2017年7月。小川はSTÁLOGY®、decolfa®、HARU stuck-on design;®のブランドマネージャー。ブランドの成長戦略を構築し、販売促進策を立案し、他部署と連携し、実行する指揮官である。そして、このエッジの効いた3つのブランドの生みの親の一人。立上げから関わったこの3ブランドには特別な愛着をもっている。この愛着ある製品たちの売上げをもっと伸ばしたい。また、世界中の人たちに知ってほしいという思いを店舗に込めたい。だが、店舗出店は小川にとってはじめての仕事。さあ、何からはじめよう。

まず、出店場所を京都の八坂に決めた。町屋造りの建築物をリノベーションして店舗にする算段である。清水寺と祇園を結ぶ小道にあり、向かいには八坂の塔がそびえる。自社製品を世界へ発信していくことを狙っているニトムズにとって、海外からの旅行客も多いこの場所は、最高のロケーションだ。
つぎに店舗設計をどうするか。東京・代官山のSTÁLOGY LABORATORY TOKYO出店の際にも依頼した企業をパートナーとして迎えた。パートナー企業と協議して決めたコンセプトは「ジャパンテクノロジー」。このコンセプトに基づき、ニトムズ製品だけでなく技術の高い日本製品もセレクトして販売しようというアイデアも議題に上がった。なるほど、同じコンセプトの他製品を並べると、ニトムズ製品の技術力をより理解しやすくなるかもしれない。この案を採用して突き進んでみよう。そう決めた。

だが、問題は山積みだった。日本一厳しいと言われる京都の景観条例。改装案は、なかなか行政の規格に収まらなかった。プラン通りに行かない。ニトムズ社内で稟議承認を得るのも一苦労だった。「またやり直しか」。近くにいた飯田にも疲労の色が滲む。だが、プロジェクトメンバーは思い通りに進まない中でも、必死で取り組んでいる。通常業務を同時並行しながらも、懸命に働いてくれている。メンバーのそんな頼もしい姿が力になった。「よし、必ずこのプロジェクトを成功させるぞ」。小川はカラダに燃える炎に、さらに熱い火を灯した。

※所属部署は取材当時のものです。

小川の想い

多くの人の知恵とアイデアが、存分に詰めこまれた店舗になった。

全てが初めてのことで、迷走することも多かったですが、メンバーの行動力に本当に助けられました。このメンバーと一丸となってやり遂げられたことにとても達成感を感じました。ここに紹介されていないメンバーにも大変感謝しています。

SECTION 01営業 飯田の経験

何もないところから、
新しいことを生みだしていく。

営業部の飯田剛はSTÁLOGY LABORATORY TOKYO出店時のリーダーだった。その経験を買われて、“日東堂”出店のプロジェクトメンバーに選ばれた。そして、小川から実行部隊のリーダーを任される。代官山のSTÁLOGY LABORATORY TOKYOに次ぐタッチポイントを増やし既存のビジネスモデルを変える事を目的に、製品の選定や、店舗デザイン設計、施工管理などを、中心となってやり切ることがミッションとなった。

しかし、出店経験があるといっても、今回はじめてのことが多い。自社製品でないものを扱うこと。コーヒースタンドを手がけること。知見の無いことへのゼロからの挑戦。何から始めたらよいかわからない。特にコーヒースタンドは悩みが多かった。飲食販売の手順は、原材料を仕入れる、つくる、売る。理屈はわかる。しかし、やり方がわからない。ただ飯田にとってこの状況は大歓迎だった。何もないところから、新しいものがどんどん生まれる。形になっていく。どんなこともこの部分がいちばん楽しいと思えるからだ。

さて、コーヒーをどう提供するか。味わいのこだわりはもちろんのこと、コンセプトは「ジャパンテクノロジー」である。使う道具や作法にも気を配りたい。淹れ方は日本で発達した技術であるハンドドリップに決めた。このコーヒーを淹れる美しい所作をしっかりとお見せできるカウンターにする。ドリッパーの素材にもこだわる。本物の道具で、本物をつくり提供する。だが初めての飲食業ということもあり、社内の動きも慎重である。リスク回避のために、なかなかOKが出なかった。
一方、メニューの開発は筒井に任せていた。飯田が思う筒井の第一印象は「おとなしい人」。信頼してないわけではないが、もっとサポートしたほうがいいのかもしれないと感じていた。だが月日を重ねるごとにどんどんコーヒースタンドが具体的になっていく。原価計算、備品の仕入れ。パートナー企業との調整も、社内の調整も、周りのメンバーの協力を得ながら、淡々と着実に進めていた。会議での発言もハッキリしている。「ああ、慌てたりしない人なんだな」と認識を改めた。「任せられる」忙しい飯田の助けとなった。

それにしてもコミュニケーションをとる相手が多い。パートナー企業の方々も一流のクリエイターばかり。とても勉強になる反面、要求も多い。その要求を噛み砕き、自分の要望も加えて社内へ伝えていく。仕入れ先との交渉や、条例の理解。ハードルは山ほどあった。ただもっとも飯田の頭を悩ませたのは社内スタッフの統率だったかもしれない。総勢20名。これだけの人数のチームを率いた経験がなかった。人数がいればキャラクターも様々。感覚でものを言う人。理詰めで考える人。ゴールは同じでも、アプローチの仕方が違う。「うーん、難しい」。ここにもまだ飯田の未経験は存在していた。

※所属部署は取材当時のものです。

飯田の想い

今までのやり方や決まりに囚われずにやりたい。

協力いただいた企業様が多かったため、その間に入ることに難しさは感じました。でもやっぱり、何もない状態からどんどん新しいことが形になっていくのは楽しいですね。これからもどんどん新しいことに挑戦していきます。

SECTION 01企画 田中の惑い

わからなかったら、
わからないと言うしかない。

「え!東京に異動ですか?」豊橋事業所で商品開発を担っていた田中莉那は、入社3年目となる直前に異動を言い渡された。東京での仕事は事業企画。学生時代から文具が好きで、文具に携わる仕事に就きたいと思っていた。新卒で配属されたのは商品開発。そこでSTÁLOGY®を担当。望み通りの仕事だった。ただ事業企画にも興味があった。事業企画で担当するSTÁLOGY®、decolfa®、HARU stuck-on design;®の3ブランドはいずれも好きなブランド。楽しみの方が勝っていたが、それでも経験がないという不安も残っていた。

日東堂は、STÁLOGY®、decolfa®、HARU stuck-on design;®を中心に展開するお店。必然的にプロジェクトメンバーに加わることになった。役割はプロジェクトメンバー全体のフォローアップ。豊橋で勤務していたときに、「若手の意見を聞きたい」と小川からアイデアへの意見を求められるなど以前から関わっていたため「自分がメンバー側になるなんて」と不思議な気持ちでいた。

田中の仕事は多岐にわたった。セレクトアイテムについて提供企業へ打合せにいったり、商品をご購入いただいた際にプレゼントする、オープン記念のノベルティを製作したり、コーヒースタンド設置の打合せに参加したりと、忙しくしていた。コーヒースタンド設置担当は同期の筒井。お互いまだ不慣れな環境。田中にとっては筒井が、筒井にとっては田中が、よき相談相手であり、お互い支えになっていた。田中は自分の意見はハッキリ言う。筒井曰く「人よりオシャレな回答をしてくれる」タイプで、トレンドに敏感で、表向きには弱みが見えない。だが、その印象とは逆に、田中は内心は焦っていた。

事業企画職は1年目。当然ながら初めての経験ばかり。元の所属部署である商品開発課に所属する同期はさらに経験を重ねている。自分はもう異動したためその専門性を磨き上げることはできない。中途半端な存在になってはいないだろうか。このプロジェクトも途中からの本格参加だ。早く追いつかなきゃ、と焦っていた。
日東堂のオープンが直前に迫り、忙しさもピークを迎えていた。コーヒースタンドで利用するカップが届かないかもしれない。製品の説明書きもまだ手がつけられず間に合わないかもしれない。分からないこともまだまだ多い。焦りは募るばかり。
やるべき業務に追われているある日、前所属部署である商品開発のメンバーが、日東堂で販売する製品のラベル貼りを手伝ってくれているという話を聞いた。みな自身の業務を抱えているにも関わらず、だ。同期の筒井もプロジェクト外の業務を抱えながら必死でがんばっている。負けられない。一人で悩んで手を止めている場合ではない。「わからなかったら、わからないと言うしかない」田中は周囲のメンバーの協力を得ながら、歩みを強めた。

※所属部署は取材当時のものです。

田中の想い

はじめてお客様が来店したときが、いちばん感動した。

日東堂に来たお客様が、製品や店舗の雰囲気、そして、コーヒーがとってもおいしいと褒めてくださいました。それが本当にうれしかったです。特に担当している3ブランドをご購入いただけたことも印象に残っています。お客様へきちんとご説明した結果でしたので、とてもやりがいを感じられました。

SECTION EPエピローグ

一度の出会いを大切に、
京都から世界に届けよう。

9月26日。日東堂のオープン。天候は雨交じりの曇り空。だが、メンバーの心は晴れやかな一日。筒井は、田中や他のプロジェクトメンバー数名とともに、はじめてのお客様を迎えた。お客様からKYOTO COFFEEのオーダーが入る。コーヒーをドリップしている待ち時間に商品を見てくださっている。商品説明を対応するのは田中だ。田中は丁寧に愛するブランドを説明し、お客様は商品購入を決めてくれた。「やった、狙いどおりだ!」お客様にゆっくりできる時間を提供できた。その上で商品購入を決めてくれた。とても達成感を感じられる瞬間だった。

コーヒースタンドは賑わいを見せる。ハンドドリップでコーヒーを淹れる姿は美しく、すっきりと開放されたカウンターは、その所作を存分に眺めることができる造りになっている。陳列された商品は気持ちよく整理されて並べられている。そのどれもが技芸にこだわった製品。「ジャパンテクノロジー」として体現したかったものが、ここにはある。

田中はオープンの盛況で忙しい店内を往来するうちに、自身の気持ちの変化を感じていた。同期に遅れているんじゃない。他の人に出来ないたくさんの経験を、今、しているんだ。企画においても商品開発のプロセスを知っているからこそ、出来る企画があると気づいた。「あのー、この商品って・・・」お客様から再び質問をいただく。自分も開発に携わった商品を直接お客様に説明できる。その喜びを感じていた。

飯田は自身の役割を終えたという安堵感と同時に、気を引き締めていた。他社の商品提供も、コーヒースタンド運営も、今まさに始まったばかり。お客様への見せ方はまだまだ発展途上。勉強しなければならない。だがこのプロジェクトを振り返って、プロジェクトメンバーはみな頼もしい存在だったと感じていた。「この店舗の運営は、筒井に任せてみるのもいいかもしれないな」ここで止まっては行けない。飯田の視線はもう、次の行き先を向く。

プロジェクトを完遂した小川は、これまでのことを振り返っていた。プロジェクトメンバー総勢20名。産休直前まで取り組んでくれたメンバーもいた。メンバーの行動力は目を見張るものがあった。通常業務を抱えながらも、一丸となってここまでこれたという事実を誇らしく感じていた。多くの人間のアイデアと技術を集め、それを一つのコンセプトに編んでいく。一つの形にする。日東堂は、関わったメンバーの想いがぎっしり詰まった店舗だ。京都の町に長く愛される店舗を、そして世界中の人々に愛される製品を、もっともっと届けていこう。そう強く誓った。